2016年12月26日月曜日
0625~ゼロロクニーゴー~
梅雨時に起こす事故は、時が経っても、また雨が降れば古傷が疼くのだ。
と誰かが教えてくれたことがある。
6月とは言え、雨が降れば、その肌に冷たさが感じられる、そんな季節だ。梅雨時というのは。
傷というのは自分が忘れたつもりでも、身体が覚えているらしい。
切ないけれど、どこか滑稽にも感じられる事実に気づき、自嘲気味な自分をなかったことにしようと、タクシーを止めるために手を挙げた。
いくらタクシーを止めるのに、1分以内とはいえ、傘を持たなければ、空から容赦なく降り続ける雨を拒まずにジャケットが重たくぬるい温度を帯びていくことは、わかりきっていた。
でも、一刻も早くタクシーに乗らなくては。
ココロではなく身体が答えをだしていることに、多少の苛立ちを感じていた。
どういうことか、消えるようにして入ったタクシーの中のあたしときたら、後部座席から身をのりだして、おぼつかない手を使い、あっちです、こっちです、なんて指図していた。
何処に行くかはきっと”身体”が覚えている。
いっそのこと本能のままに、任せてみよう。そう、腹をくくったが、もう一人の自分が冷静にこの状況を顧みていて
”誰でもいいけどさぁ、じゃあ、教えてほしいけど、今のあたしの頬にかかる水滴は拭いきれなかった雨なのか、涙なのかどっちなの?”
なんて、もう一人の自分とお喋りをしていた。
そこへタクシーの運転手が落ち着いた様子で話しかけてきた。
車内は前に乗った人の残り香なのか、煙草の匂いがした。
「先程から、お急ぎのようですけれども、病院か何かですか?具合が本当は悪いとか。」
「いえ、そんなんじゃなくて。」
ついつい話しぶりが荒くなる。
だって自分も分からないのだ、何処に行きたいのかなんて。
「では、どなたか身内の方の御見舞いとかですか」
やっぱりこの運転手は分かってないなぁ。と苛立ちを隠せなかった。
「どっちだっていいでしょう、理由は何であってもいいじゃない!」
声の大きさに驚き、これ以上運転手が声をかけることはなかった。
着いたのは、元彼の住むマンションだった。身体が覚えていたことに、自分でも驚き、呆れた。
あんなに好きだったのに、こっちから振ってやった彼。
そのマンションの前にいる。
古傷が疼く、か。
土砂降りの雨の中、頬の水滴を拭い、その足はエレベーターへと向かっていった。
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